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 アイコン Notte di Valentino〜バレンタインの夜〜

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それから4日後のバレンタイン当日。

その日は朝から快晴で、2月の割には暖かい陽気だった。

「おはようございますっ!じゅうだいめ。

獄寺隼人、本日もお迎えにあがらせて頂きましたっ!!」

「あらあら獄寺くん、今日もごくろうさま。

いまツッくん下りてくると思うから、もうちょっと待ってて頂戴ね」

「はいっ!お母様」

「あっ、そうそう、今日はバレンタインですものね。

ハイ、これチョコレート。獄寺くん甘いものあまり得意じゃないって聞いたから

ビターにしてみたんだけれど、お口に合うかしら…?」

「……あ、ありがとうございますっ!!

お母様が作ってくださったお料理は世界一、いや宇宙一ですからっ!

絶対マズイはずかありません!

有り難く頂戴させていただきますねっ!」

「うふふふ、獄寺くんは本当におもしろい子ね。

…それにとってもいい子。

こんなに良いお友達が持てたツナは、とてもしあわせ者だわ」

「! ……いいえ、お母様。それは違います…。

幸せにして頂いているのは、いつも俺の方で………」

「――あら獄寺くん、そんなことはないのよ?

ふたり一緒にいるのに、どちらか一方だけが幸せなんてことはあり得ないもの。

……片方が幸せだったら、もうひとりも幸せなものよ。

それはあなたが、まだ気が付いていないだけ。

―――早く気づけるといいわね」

そう言って目を細めたお母様のお顔は、じゅうだいめが俺に向けてくださるお顔に、とてもよく似ていた。



それから10分後。

俺たちはふたり、人気のまばらになった通学路を全力疾走していた。

「ごめんね、遅くなって…!

学校間に合うかな。遅刻したらひばりさんにかみ殺されちゃうよ…!」

「大丈夫ですよ、じゅうだいめ。

もし無理そうでしたら1間目、さぼっちまいましょう」

「えっ!? でも…、

バレたらリボーンにも半殺しにされるよ…?」

「………あっ、そうでしたね…。

とりあえず急ぎましょう。あともう少しですから」

「う、うん」

そう会話を一端区切った俺は、恐れ多いかとも思ったけれど、

じゅうだいめの右手を何気ない動作で取ると、その手を引いて、さらに速度を加速させた。

男同士で朝から手を繋ぐなんてことはなかなか出来やしないが、

いまはこちらの方がいいだろう。


(じゅうだいめにひばりの相手なんかさせられるかってんだ…!!)


しかし、あと100メートルほどで校内に入れる、という時、

風紀委員しかいなかった校門前に、100人はゆうに超えるであろう女子の群れが現れたのだ。

そして俺たちの足は止まった。


「…獄寺くん、あれって…」

「……ハイ、じゅうだいめ」

「確実にこっちに向かってきてるよね」

「…ハイ」

「今日バレンタインだもんね、君ねらいの子たちだよね」

「…ハイ。…おそらく」

「……どうしようか、獄寺くん」

「…ちっ、仕方ねぇ…!

じゅうだいめ、俺は逆方向に逃げますから、じゅうだいめは校内に入ってください」

「えっ!?でもそれじゃあ君が……!」

「俺と一緒にいた方があぶねぇです。

俺も時を見て合流しますから、心配なさらないでください」

ニコッと笑みを作って彼の人をみると、とても心配そうな顔をされていたが、

握っていた片手を両手でやさしく包み込むと、そのひとは瞳をすこし潤ませながら、

「……わかった。絶対無事に帰ってきてね!?…俺、待ってるからっ」

俺の手を力強く握り返してくださったんだ。

「では、じゅうだいめ。俺はこれで……」


そして、繋いでいた手と手が離れた。



おそらくいまの会話を聞いていた人がいたら、

『朝っぱらからなんなの、このらぶらぶな会話…』と、

きっと顔を歪ませたに違いない……。

しかし、彼らは無自覚なのだ。これが…。

どう考えても両思いだよねぇ…?コレ。



――そして獄寺隼人が走り去った方向に向かって、女子の波も大きく方向転換した。

「キャー!!獄寺くんよ〜!!

バレンタインチョコ作ってきたの〜!受け取って〜♪」

「ちょっと!!あたしが先よ!

獄寺くん、ガトーショコラはお好き〜?」

「ちがうわよ!獄寺くんはフォンダンショコラがお好きなのよ!」

「ええい黙らっしゃい!このメスブタっ!」

「なによ、そっちこそ豚足みたいな足しちゃってっ!!」

「なんですってぇ〜!?あんたのほうが………」


などなど、まるで淑女らしからぬ咆哮を上げながら、

その大群は獄寺隼人を追って、並盛商店街の方向へと消えていった。



そして、ひとり残されたツナは――。


「………ホントにだいじょうぶかな、獄寺くん…」

容姿端麗なのにも問題ってあるんだなぁ…、と嘆息しつつ、

チャイムの鳴る校内へと駆け込んだのだった。





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